日本人の歯を失う原因の第1位は歯周病(37%)となっており、年齢別の歯周病罹患率は15-24歳が20% 、25-34歳で30% 、35-44歳で40%、 45-54歳は50%、そして55歳以上は55-60%という割合になっています。このように歯周病は年齢が上がれば上がるほど罹患率は増えています。
歯周病の怖さは、自覚症状がなく痛みを伴わずゆっくりと進行し、歯を支える骨を溶かしてしまうところです。今回は、歯周病の原因や全身への悪影響についてをご紹介します。
そもそも歯周病とはいったい何なのでしょうか?
目次
「沈黙の病気」とも呼ばれる歯周病
歯周病とは、細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患で、歯の周りの歯ぐき(歯肉)や、歯を支える骨(歯槽骨)などが溶けてしまう病気です。歯と歯肉の境目の清掃が行き届かないでいると、そこに多くの細菌が停滞し歯肉が炎症を起こして赤くなったり、腫れたりしますが痛みはほとんどの場合ありません。かなり悪くならなければ、目立った自覚症状がないため「沈黙の病気」とも呼ばれています。 噛みしめたときに歯が揺れるまたは痛くなったり、歯ぐきから膿が出るといった自覚症状が出てきた頃には重症の状態で、最終的には歯が抜けてしまいます。
歯周病は進行性の病気
歯周病は、大きく分けると「歯肉炎」と「歯周炎」があります。炎症が歯肉だけにある状態を「歯肉炎」といい、歯肉から歯槽骨まで広がった状態を「歯周炎」といいます。
歯周病の歯肉の状態と症状
健康な歯肉
●歯肉は淡いピンク色
●歯肉が引き締まって弾力がある
●ブラッシングでは出血しない
歯肉炎
●歯肉の色は赤色
●腫れた歯肉と歯との間に歯垢や歯石がつく
●歯と歯の間の歯肉が炎症を起こし丸みを帯び膨らむ
●ブラッシングで出血する
歯周炎
●歯肉がさらに腫れて赤紫色になる
●歯肉が下がり歯が長く見える
●歯周ポケットが深くなり歯槽骨が溶け始める
●ブラッシングで出血や膿がでる
歯周病の原因は歯垢(プラーク)
歯磨きが十分でないと歯に歯垢(プラーク)がつきます。歯垢は、白色または黄白色のネバネバした細菌と代謝物のかたまりで、食べかすとは別物です。この歯垢中の歯周病原菌と言われる細菌が細菌が出す毒素によって、歯ぐきに炎症が起きてしまいます。この歯垢1mgの中には約10億個の細菌が棲みついていると言われ、そのほとんどが酸素の少ない場所を好むため、歯と歯ぐきのすき間(歯周ポケット)に多く潜んでいます。
「口腔内環境」や「生活習慣」にも注意が必要!
歯周病は「口腔内環境」や「生活習慣」には、リスクファクター(危険因子)が潜んでいます。歯周病のケアには、適切なブラッシングで歯垢(プラーク)を取り除くことと、これらのリスクファクターを少なくしていくことが必要です。
局所的なリスクファクター(口腔内環境)
歯石
歯垢(プラーク)を放置すると、唾液中のカルシウムなどが沈着して歯石と呼ばれる物質に変化し歯の表面に強固に付着します。これはブラッシングだけでは取り除くことができません。この歯石の中や周囲に細菌が入り込み、歯周病を進行させる毒素を出し続けていきます。
歯並び
歯並びがガタガタしていると、歯ブラシの毛先が届きにくいため汚れが残ってしまいがちです。歯並びが悪いことでブラッシング不足を招き、その結果歯周病のリスクが高まってしまいます。
口呼吸などの口腔習癖
口で呼吸することが癖になっていると歯垢(プラーク)が溜まりやすい乾燥した状態になります。また、歯ぎしりは歯や歯ぐきに強い力がかかり、炎症が起こりやすくなります。
不適合な修復物
歯の修復物(クラウン)が自分の歯に合わないと隙間ができたりその周りに歯垢(プラーク)がつきやすくなります。
全身的なリスクファクター(生活習慣)
近年、生活習慣が歯周病を引き起こしたり、悪化させたりすることがわかっています。下記に紹介してある以外にも遺伝や肥満、女性ホルモンなど様々な要素がリスクファクター(危険因子)として潜んでいます。
喫煙
喫煙は歯周病を悪化させる大きなリスクファクターです。タバコに含まれるニコチン・タールや一酸化炭素は、お口の中の衛生状態の悪化や、歯の周りの組織の免疫力低下を招きます。細菌が繁殖しやすくなるため、歯周病が早く進みます。
ストレス
強いストレスを感じることは、全身の免疫機能低下につながります。そのため歯周病細菌に対する抵抗力も低下し歯周病が悪化しやすい状態になります。
不摂生な生活や食習慣
不規則な生活による疲労や寝不足、また食事や栄養の偏りは歯周組織の抵抗力を弱め、全身の健康に悪影響を与えます。特に甘いものを多く食べる食習慣は、歯周病の原因であるプラークを増殖させやすくします。
歯周病は全身の健康にも影響します
歯周病というとお口の病気で全身の健康には関係のないように思えますが、歯周病による歯肉の炎症が全身に多くの影響を及ぼすことは、昨今の研究で明らかになってきています。
糖尿病
歯周病は、血糖値を下げるために必要なインスリンの生成を抑制します。その結果、血糖値が上がりやすくなり、糖尿病の症状が悪化します。糖尿病にかかっている人は歯周病が多いという調査結果が報告もされており、歯周病は糖尿病の合併症の一つに挙げられています。
肺炎
高齢者の死因の中でも上位に入っているのが肺炎です。肺炎の中でも、口の中の細菌が肺に入り込み炎症を起こす肺炎を誤嚥性肺炎や嚥下性肺炎といいます。誤嚥性肺炎を起こした患者さんの肺からは、歯周病原因菌が高い頻度で見つかることから、歯周病と肺炎に強い関連性があるとされています。
心疾患
歯周病が進行し歯周病菌が増えると、歯肉の血管を通り血流に乗り心臓へ移動します。そしてその歯周病菌が心臓の血管壁に炎症を起こします。その炎症部分が動脈硬化を起こし、狭心症や心筋梗塞を引き起こしてしまいます。
早産や低体重児出産
歯周病に罹患している場合、日本臨床歯周病学会の報告によると早産や低体重児のリスクがおよそ7倍とも言われています。タバコやアルコール、高齢出産と比べてもはるかに高い数字です。
歯周病は予防と治療が大切です
何より早期発見が大切で、歯周病の前段階である「歯肉炎」の状態であれば、自然治癒する可能性もあります。 治療する場合においても、早期の状態であればスムーズに進めることが可能です。進行を防ぐためにもお口の状態は、定期的にチェックしましょう。
まとめ
国民病である歯周病。お口の病気ですが、全身の健康にも多くの影響を及ぼします。歯周病にならないために現在のお口の状態や生活習慣を確認して、リスクファクターを出来るだけ減らしましょう。
歯周病は、早期は自覚症状もあまりないため気づきにくいです。全身の健康のためにも早期発見が大切です^^
歯科医院の定期検診へ行けていないという方は、この機会に受けてみてはいかがでしょうか?
記事監修 Dr.鳥居 健二
田治米歯科クリニック 八尾医院
院長 鳥居 健二