国民病である歯周病。以前に、歯周病に関しては歯を失う原因1位!「歯周病」の原因と全身への悪影響という内容でご紹介していますが、今回はそちらの記事を踏まえて、歯周病のリスクファクターの1つであるタバコに焦点を当てて紹介していきます。
喫煙者は非喫煙者に比べて歯周病にかかりやすく、重症化しやすいことが分かっています。また喫煙者は歯周病の治療効果が低く、治療後の傷も治りにくいです。どうしてこのような事が起こるのでしょうか?
目次
喫煙がお口の中に与える影響
タバコには約 200 種類もの有害物質が含まれています。その中でも大きな影響を与えている三大有害物質がニコチン・タール・一酸化炭素です。これらの有害物質の相乗作用によって歯周病は悪化し、治療しても術後の経過が不良になります。ある統計データによると、歯周病にかかるリスクは1日10本以上喫煙すると5.4倍に、10年以上喫煙すると4.3倍に上昇し、重症化しやすくなるといわれています。
●ニコチン
「ニコチン」には、血管を縮めてしまう作用があります。血管が縮まると血行が悪くなり、歯ぐきが炎症を起こしても、出血や腫れが現れにくくなり、歯周病の発見が遅れます。また、体が傷を治そうとする細胞の働きまで抑えてしまうため、治療を始めても歯ぐきの治りが悪く、手術後の治りも遅くなります。また、体を守ってくれる免疫機能も低下させるので、歯周病だけではなく様々な病気への抵抗力が落ちたり、アレルギーの引き金になったりします。
●タール
「タール」はいわゆる「ヤニ」のことで、発がん性物質が多量に含まれています。ヤニは粒子状なので歯にくっつくと歯がザラザラになります。歯の露出面に黒褐色に沈着し見た目も悪くなります。プラーク(歯垢)はツルツルな歯よりザラザラの歯の方がくっつきやすいので、ヤニはプラークがくっつきやすい状態をつくります。プラークが付着すると虫歯や歯周病・口臭のリスクが高くなります。
●一酸化炭素
「一酸化炭素」は、血液が酸素を全身に運ぶのを邪魔します。これにより酸素を届けるヘモグロビン濃度が低下し、お口の中が貧血状態になってしまうため、歯茎が黒ずみます。また、ニコチンとともに身体の免疫担当細胞の活動を著しく低下させてしまいます。
喫煙者は歯周病の治療を妨げる
喫煙者は、歯周病(歯槽膿漏)にかかりやすく、重症化しやすいので、治療しても治りにくいことがわかっています。その理由としてタバコに含まれる成分により、歯周病の原因となるプラークや歯石が付着しやすくなり、そしてビタミンCを壊してしまうことによって歯ぐきを作っているコラーゲンがうまく作られなくなることが挙げられます。ビタミンCには「コラーゲン合成促進効果」があり、壊れたコラーゲン線維の再生を促し、歯ぐきを健康に保ってくれます。タバコが原因でコラーゲンが作られなくなると、歯ぐきも老化が早まってしまいます。
また、タバコの有害物質が直接お口の中に作用するだけでなく、肺を通して体内に取り込むことによって体の抵抗力が低下し、歯周病が進行し、治りにくくなってしまいます。
受動喫煙の方が歯周病リスクが高い!
喫煙していない方も、受動喫煙によって口腔内に影響が出る可能性があります。大人だけでなく子どもの虫歯や歯ぐきのメラニン色素沈着のリスクが高くなることもわかっています。受動喫煙とは、他人の喫煙により発生したたばこの煙を吸ってしまうことです。たばこの煙には、ニコチン、タール(発がん性物質)、一酸化炭素などの多くの有害物質が含まれます。 これらの有害物質は喫煙者が吸う「主流煙」より、たばこの先から出る「副流煙」に多く含まれています。
喫煙者の歯周病リスクがタバコを吸わない人の3.3倍である一方、受動喫煙者の歯周病リスクは、タバコを吸わない人の3.6倍で喫煙しているよりも高い割合です。
加熱式タバコだったら大丈夫?
紙タバコより加熱式タバコ(iQOSなど)の方が「タール」の分量が少ないので、加熱式タバコを吸うことで付着する着色汚れが防げます。また、主流煙中に含まれる一部の有害物質(一酸化炭素など)は確かに減少しており、従来の紙巻きタバコより「健康への害が少ない」と言われています。しかし、ニコチンの量は変わらずに含まれており、有害物質が含まれていないわけではありません。喫煙が体への悪影響があることは間違いないので紙タバコと同様に加熱式タバコもできるだけ吸わない方が良いです。
喫煙者は歯周病になりやすく、症状が出にくい状態ですので、紙タバコ、加熱式タバコ関係なく一度歯科医院で検診を受けていただく事をオススメします。
歯周病の治療に重要となる禁煙
喫煙者は非喫煙者に比べて、歯周病の治療の効果が低いことをお話しましたが、禁煙すると歯ぐきの状態が回復し、免疫や細胞のはたらきが高まるため、歯周病のリスクが低下し治療効果が上がることが明らかになっています。禁煙を始めると比較的早期に影響が出てきます。数日後には歯茎の血流量は増えてきて、歯周組織は数週間で本来備わっていた免疫応答を回復するようになり、歯周治療によって 1 年後には歯ぐきは本来の健康な状態に回復します。歯ぐきの黒ずんだ見た目も少しずつ本来の健康な歯ぐきの色にもどります。手術後の治療経過も禁煙者は非喫煙者とほとんど差が無くなります。
禁煙に成功した方の歯や歯茎の変化
写真は 1 日 20 本ずつ 30 年間喫煙していた人が禁煙に成功し、約 11 年後の状態です。禁煙前と禁煙後では、明らかに歯茎の色や歯の状態にも違いがあります。禁煙をするのは、非常に難しいことですが、きちんとお口の状態に良い変化をもたらしてくれます。
禁煙が体に及ぼす良い変化
お口が健康であることは、全身の健康にも大きくかかわっており、生活の質の維持と向上に大切です。タバコをやめると以下のような良い変化がみられます
●呼吸が楽になり、咳・痰が出なくなる。 ●味覚が戻り、おいしく食事ができる。 ●口の中が爽やかになり、口臭がなくなる。 ●健康になり、ガンの心配が減る。 ●家族や周囲の人が喜んでくれる。 長年タバコを吸っていても、禁煙するのに遅すぎることはありません。1990年に出版されたアメリカの公衆衛生長官の報告書は、これまでの世界各国の研究をまとめ、「禁煙は性別・年齢・喫煙による病気の有無を問わず、すべての人々に大きくかつ迅速な健康改善をもたらす」と報告しています。 禁煙は、歯周病だけでなく健康改善のために非常に重要な要素だといえます。
禁煙の達成は周りのサポートも必要
しかし、喫煙者が禁煙することは非喫煙者が考えるほど簡単なことではありません。その理由はタバコの主要成分であるニコチンに強力な依存性があり薬物依存症(ニコチン依存症)にかかってしまうからなのです。
禁煙を挑戦する方にとって、最も強力なサポーターはご家族や周りの方です。サポートするときに心がけたいことをいくつかご紹介します。
- 禁煙ができていたらとにかく褒める
- たばこを吸いたくならないような環境を整備する。
- 禁煙に役立ちそうな食べ物(ガムなど)を買ってくる。
- 気分転換ができるよう、外出する。
- 禁煙を孤独な作業にせず、一緒に頑張る・・・など
禁煙することは、お口の健康だけでなく全身の健康にとっても大きな意義があります。歯周病だけでなく、大きな病気にかかる危険を減らすことができるばかりでなく、受動喫煙によって周囲へ悪影響を及ぼすこともなくなります。歯周病予防と全身の健康のためにも喫煙者の方は、この機会にぜひ禁煙にチャレンジしましょう。
まとめ
タバコを吸う人は、吸わない人に比べて歯周病にかかりやすく、進行も早く、歯周病の治療をしても治りが悪い傾向があります。何より怖いのは喫煙はタバコを吸っている本人だけでなく、受動喫煙によって周りの人の方へ悪影響を及ぼしてしまうことです。タバコを吸っている方は周りの方に対しての十分な配慮を心がけましょう。
禁煙は簡単なことではありませんが、それと引き換えに得られる体への良い変化もたくさんあります。健康的な毎日を過ごすために喫煙中の方は、禁煙をぜひスタートしてみてはいかがでしょうか?
記事監修 Dr.鳥居 健二
田治米歯科クリニック 八尾医院
院長 鳥居 健二