「ボトックス」治療と聞くと美容の世界ではシワ取りをイメージされる方も多いと思いますが、歯科では歯ぎしりや食いしばりに効果的な治療法です。日本ではあまり馴染のない治療法かもしれませんが、既に欧米では良く知られた治療法になっています。
噛む筋肉(咬筋)にボトックスを注射し筋肉を緩め、歯ぎしりや食いしばりを改善し、様々なトラブルから歯を守るために活用されています。
今回は、歯ぎしりや食いしばりに有効なボトックス(ボツリヌス)治療についてご紹介します。
目次
ボトックス(ボツリヌス)治療とは?
ボトックス(ボツリヌス)治療は、ボツリヌス菌由来のタンパク質である「ボツリヌストキシン」を投与する治療法です。この「ボツリヌストキシン」はアセチルコリンと呼ばれる筋肉の動きに関与する神経伝達物質の分泌を抑制し、一時的に筋肉を麻痺させる効果があります。咬筋の発達を抑制して小顔効果を得たり、表情ジワを改善したり、歯科では歯ぎしりや食いしばりの治療としても活用されています。
ボトックス治療とボツリヌス治療の違い
ボトックスは、アラガン社が製造するボツリヌス治療に使用される製品名のことで、ボツリヌスは、ボツリヌストキシンを使った治療の総称を指します。ボトックス治療とボツリヌス治療の違いは呼び方の違いだけで、ボツリヌストキシンから抽出されたタンパク質を使用する点で違いはありません。
様々なシーンで活用されている安全な治療法
ボトックス注射に含まれるボツリヌストキシンは、人体に影響のない濃度に調整されているため安全性に問題はありません。また、ボツリヌス菌から抽出されるタンパクを無毒化したものを使用するためボツリヌス菌そのものを注射するわけではないため、ボツリヌス菌に感染する危険性もありません。日本では、眼瞼痙攣(がんけんけいれん)などの治療に対して厚生労働省から承認も受けている安全な治療法で、最近では、脳性麻痺の方の口腔ケア向上や吸引チューブ破損防止、うつ病の筋緊張緩和など、多くの場面でボツリヌス療法が活用されています。
美容外科と歯科医院のボトックス(ボツリヌス)治療の違い
美容外科と歯科医院でのボトックス(ボツリヌス)治療の違いは、治療目的と期待される効果です。施術方法は美容外科でも歯科医院でもほぼ同じです。
◇美容外科:見た目の「美しさ」を最優先した美容目的
美容外科でのボトックス(ボツリヌス)治療は、美容効果を重視して治療するため、スッキリした見た目になる、肌につやが出る、見た目年齢が10歳若返るなど、見た目がよくなる効果が期待できます。また、口周り以外にも、額や眉間などしわが気になる部分や、ふくらはぎなどスタイルが気になる部分にも注入することができます。
◇歯科医院:主に歯ぎしりや食いしばりなどの治療目的
歯科では、歯ぎしりや食いしばりの影響による歯の擦り減り、歯や歯茎の痛み、顎関節症、首や肩の凝りなどの症状を抑えるための治療としてボトックス(ボツリヌス)治療を行います。噛む力を調整する「咬筋」の緊張による過剰な動きを抑え、それによって起こる歯や顎の痛みを軽減します。お口周りの筋肉量やエラ張りのほか、口腔内の環境や金属の有無、歯周病の程度などを考慮したうえで治療を行います。
歯ぎしりや食いしばりが及ぼす悪影響
歯ぎしりは「上下の歯を強く噛み合わせてずらすと音がなること」、食いしばりは「歯を無意識に噛みしめてしまうこと」です。歯ぎしりや食いしばりは、上下の歯が強い力で接触するため、歯が折れやすく、擦り減る速度も早まるため、以下のような悪影響を及ぼします。
- 顎関節への過度な負担による顎関節症の発症
- 歯が欠けたり、折れてしまう可能性がある
- 虫歯になりやすくなる
- 詰め物、被せ物、差し歯が頻繁に外れる
- エラが張る、顔が大きくなる(咬筋が発達してしまう)
- 歯の過剰なすり減り
- 歯周病を進行させてしまう(歯を支えている骨が吸収する)
- 首こり、肩こり、偏頭痛
- 熟睡できない(起きた時の倦怠感や顎の疲れ)
歯ぎしり・食いしばりチェックリスト
歯ぎしりや、食いしばりが起きるのは眠っている時や、何かに夢中になっている時が多いため自覚症状がないことも多く、家族から指摘されて気づくという事も多いです。下記の項目にいくつか当てはまるものがある場合は、一度歯科医院で相談してみましょう。
- 朝起きたときに顎がだるい、疲れている、痛いなどの症状がある
- 歯がすり減っている、欠けている、割れている
- 首こりや肩こりがひどい
- 歯の根元が削れている、くさび状に欠けている
- 頬の筋肉にはりやこりがある
- 頬の内側や舌に噛んだ跡のシワがある
- 詰め物がかぶせ物が取れやすい
- 虫歯でもないのに歯がしみる(知覚過敏)
- 原因不明の頭痛がある
- 集中している時などに、無意識のうちに歯を噛み締めている事がある
マウスピースとの併用で効率的に症状を改善
歯ぎしり食いしばりの治療で一般的なものに「マウスピース治療」があります。マウスピース治療は、睡眠時専用のマウスピース(ナイトガード)を装着して眠ることで、顎に加わる負担を軽減するとともに、歯ぎしりの不快な音を防止することができます。このマウスピース治療とボトックス(ボツリヌス)治療を併用することで、マウスピースの摩耗も減らせるだけでなく、筋肉の緊張の緩和・噛む力をコントロールすることによって、歯ぎしり・食いしばりを効率良く改善することができます。
ボトックス(ボツリヌス)治療の注意点
◆痛みについて
ボトックス治療は、予防接種や採血の注射の際に感じるようなチクッとした痛みがありますが、非常に細い注射針を使用するため、強い痛みを感じる事はほとんどありません。痛みに敏感な方には、表面麻酔を使用することもできます。
◆効果の持続性
効果の持続性には個人差がありますが、4〜6ヶ月ほど持続します。しかし、効果が永続的に続くわけではないため、歯ぎしりや食いしばり(噛み締め)などがなくなってきたと実感できるまでは、定期的にボトックス注射をすることをお勧めします。定期的に施術すると持続時間は長くなる傾向があります。
◆アレルギーがある場合
ボツリヌストキシンによるアレルギー反応のリスクは低いですが、原因としては薬品や注射針の金属などが考えられます。アレルギー反応が起きても、他の副作用と同様に軽度な腫れ、赤み、かゆみが約1週間程度で収まり、生活に支障が生じるほどの影響は通常見られません。ただし、アレルギー反応が強くなる可能性があるため、事前にアレルギーがある方は医師に相談しましょう。
治療後に気をつけること
ボトックス(ボツリヌス)治療は、注射針が血管に当たることで施術後に痛み、腫れ、内出血の症状が現れることがあります。体温が上がると症状が悪化する可能性があるため、施術当日は、以下のことに気をつけてください。
- 激しい運動は控える
- 過度の飲酒はしない
- サウナに入る
- 熱いお風呂に長く浸かったりせず、できればシャワーにする
- マッサージ、エステなどで注射部位を揉まない
当日以降も、術後2週間以内のレーザー、フォトフェイシャル、脱毛のような熱を加える処置は、ボトックス(ボツリヌス)注射の効果が消える可能性があるため控えましょう。
まとめ
ボトックス(ボツリヌス)治療は「咬筋」の働きを抑えて過剰発達を緩和させ、フェイスラインをすっきりとさせるため、小顔効果やシワ取りとして有名ですが、歯科では歯ぎしりや食いしばりの治療に活用されています。
歯ぎしりや食いしばりは歯を破壊し、お口だけでなく身体にも様々な障害を起こす可能性があるため放置せずに早めに解決することが大切です。歯ぎしりや食いしばりの症状でお悩みの場合は、「ボトックス(ボツリヌス)治療」も1つの候補として検討してみてください。
患者さまのお口の状態に合わせて、ボトックス(ボツリヌス)治療を含めた中で最適な治療法をご提案させていただきます。お口のお悩みがある場合は、お気軽にご相談ください。
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記事監修 Dr.鳥居 健二
田治米歯科クリニック 八尾医院
院長 鳥居 健二